
2025年9月20-21日に,岐阜県の長良川で開催された「アユの放流と友釣りを考える会」という会に呼んでいただいた機会に,長良川のアユ研究・河川環境研究についてまとめて話題提供してきました.
この会は,全国の内水面漁業の水産試験場関係者の方々の集まりで,毎年1回全国のどこかを会場に開催されている集まりで,既に25回目だとか. 短い講演資料と,その元となる論文について,参加者の方々から色々とご質問をいただいたので以下にリストアップしておきます.
講演資料 「長良川のアユ研究・河川環境研究」PDF
上記の講演資料は,以下の論文等からの成果の抜粋となっています.
各論文の要点を★印で示していますので,そこだけでも読んでいただければ,凡そどのようなことが分かっているかをご覧いただけます.
研究1)アユ環境DNAと流量・水温変動
★アユが好適な水温レンジの河川区間に移動している/渇水時高水温によりスーパー土用隠れが発生
Nagayama, S., Sueyoshi, M., Fujii, R., & Harada, M. (2023). Basin-scale spatiotemporal distribution of ayu Plecoglossus altivelis and its relationship with water temperature from summer growth to autumn spawning periods. Landscape and Ecological Engineering, 19(1), 21-31.
https://doi.org/10.1007/s11355-022-00509-7
→永山先生による本論文の解説記事
★アユが増水が続く区間を避けて相対的に流量が少ない支川等に移動している
Harada, M., & Nagayama, S. (2022). Impacts of flood disturbance on the dynamics of basin-scale swimming fish migration in mountainous streams. Water, 14(4), 538.
https://doi.org/10.3390/w14040538
平野和希, & 原田守啓. (2022). 流域スケールにおける洪水攪乱外力の評価手法. 土木学会論文集 B1 (水工学), 78(2), I_907-I_912.
https://doi.org/10.2208/jscejhe.78.2_i_907
研究2)アユの産卵降河トリガー
★アユの産卵降河は,水温の低下と,増水の2つのトリガーにより誘発される/産卵降河が一か月以上遅れている(海洋生活期が短縮される)
Nagayama, S., Fujii, R., Harada, M., & Sueyoshi, M. (2023). Low water temperature and increased discharge trigger downstream spawning migration of ayu Plecoglossus altivelis. Fisheries Science, 89(4), 463-475.
https://doi.org/10.1007/s12562-023-01694-6
→永山先生による本論文の解説記事
研究3)アユ耳石に刻まれたSr同位体比からアユの生涯履歴を読み解く
★早期遡上アユは本川上流を目指し,本川が埋まってくると中小支川にも遡上アユが入っていく傾向が見られる/産卵場に集まる産卵親魚の約9割は天然遡上アユであった.
Nagayama, S., Ohta, T., Fujii, R., Harada, M., & Iizuka, T. (2025). Habitat use and growth strategies of amphidromous fish “ayu” throughout a river system. Scientific Reports, 15(1), 18695.
https://doi.org/10.1038/s41598-025-02988-8
→永山先生による本論文の解説記事
研究4)長良川本川・支川の水温変動特性
★河川水温の変動特性は,支川によって異なるが,本川の水温を安定化させる作用がある/渇水時の水温上昇に水田排水が寄与している可能性がある
(ただいま投稿準備中です)
研究5)アユ産卵場の適地となる物理環境,適地分布予測手法
★アユの産卵場はどんな環境なのか?古今東西339編の論文から見出された共通項は
藤田朝彦, 横山良太, 加藤康充, 井上修, & 原田守啓. (2022). アユの産卵環境はどこまでわかったのか. 応用生態工学, 24(2), 217-234.
https://doi.org/10.3825/ece.21-00021
★河床変動計算(川の流れによって土砂が移動する計算)と適地条件から産卵場適地を見つけ出す/アユ産卵環境のレビュー論文を土砂水理学的な適地条件に置き換えて使用
原田守啓, 塩澤翔平, 鈴木崇史, & 永山滋也. (2024). 河床環境に着目したアユの産卵適地評価. 土木学会論文集, 80(16), 23-16105.
https://doi.org/10.2208/jscejj.23-16105
↓論文内容を水工学講演会で発表した際のプレゼン資料もどうぞ
参考:アユ適地評価手法を構成する,石礫床河川の水理計算の土台となる論文
原田守啓, 塩澤翔平, & 荒川貴都. (2019). 流水抵抗と空隙率の評価方法が石礫床河川の平面 2 次元河床変動計算に与える影響. 土木学会論文集 B1 (水工学), 75(2), I_997-I_1002.
https://doi.org/10.2208/jscejhe.75.2_I_997
原田守啓, 吉川敦希, & 三輪浩. (2021). 石礫床河川の早瀬における流水抵抗と河床表層状態の関係性. 土木学会論文集 B1 (水工学), 77(2), I_637-I_642.
https://doi.org/10.2208/jscejhe.77.2_i_637
↓論文内容を水工学講演会で発表した際のプレゼン資料もどうぞ
以下,参考として.
上記の講演資料に含まれていませんが,山地渓流,石礫床河川の河川環境保全の基盤となるはずの議論としていくつかご紹介します.
★山地河川で河岸を平滑な護岸にすると石が安定せずステップ・プールが維持できない/河岸粗度(河岸の巨石)と川幅が河道の安定のために必要/美山河改訂版にも書いてあるとおりのこと.
原田守啓, 塩澤翔平, & 國島佑紀. (2019). 山地急流河川における川幅と河岸粗度が河床安定に及ぼす影響. 河川技術論文集, 25, 699-704.
https://doi.org/10.11532/river.25.0_699
★川底の玉石の間が砂利・砂で埋塞すると,河床近傍の流速が上がり魚類の生息場が無くなる/石の凹凸がなければ遊泳魚も川に居場所がない
原田守啓, 小野田幸生, & 萱場祐一. (2014). 粗粒化した石礫河床への土砂供給が遊泳性魚類の空間利用に及ぼす影響に関する一考察. 土木学会論文集 B1 (水工学), 70(4), I_1339-I_1344.
https://doi.org/10.2208/jscejhe.70.I_1339
Yanda, R., Harada, M., & Tamagawa, I. (2016). The effects of sediment supply on hydraulic characteristics of flow over the imbricated cobbles. 土木学会論文集 B1 (水工学), 72(4), I_613-I_618.
https://doi.org/10.2208/jscejhe.72.I_613
★オイカワの成魚を用いた実験では,河床の玉石の空隙が砂利で埋塞すると流れが速くなり,オイカワは定位できる場所が減少し個体の多くは流された.
Harada, M., Rahma, Y., Yukio, O., & Yuichi, K. (2017). Swimming fish habitat evaluation concept focusing on flow characteristics around the roughness layer in streams. In Proc. of the 37th IAHR World Congress
https://researchmap.jp/morihiro_harada/published_papers/18919038/attachment_file.pdf
なお,小野田幸生博士が行った「礫の露出高」に着目した一連の研究によれば,アユが石の表面のコケを食むためには河床から5cmくらいは飛び出していないといけないという報告もあります.
★洪水時の避難場となる中小河川の河道内氾濫原,河川合流部の環境の重要性と治水上の危険性
原田守啓, 永山滋也, 河口洋一, & 萱場祐一. (2020). 中小河川の河道内氾濫原と河川合流部の重要性. 応用生態工学, 23(1), 109-115.
https://doi.org/10.3825/ece.23.109
以下は,砂州の平坦な掘削が河川環境に及ぼす影響や河道掘削時の石の持ち出しなどに関係する研究です.河川管理者によっては,掘削時に玉石を残す取り組みをしてくださっています.岐阜県でも自然共生川づくりの手引き第3章に石を残す施工方法と積算方法について記載してあります.
これが全国で当たり前になるようにしていただきたいです.
★砂州を掘削した後の再堆積をどの程度シミュレーションで予測可能か?という論文だが,モニタリング調査の結果,掘削後に短期間で再堆積する土砂は,「砂利・砂」が主体で石はほとんど含まれなかった/短期間に流下する砂利・砂に砂州が置き換わった
北野陽資, & 原田守啓. (2024). 石礫床河川の砂州掘削後の河床変動予測における平面二次元計算の活用方法. 河川技術論文集, 30, 113-118.
https://doi.org/10.11532/river.30.0_113
★河川を土砂が流れ下るのに必要な時間スケールは?/砂利・砂は簡単に動くのですぐに流れる/石は滅多に動かず流下するのに非常に長い時間かかる(石は有限の資源である)
原田守啓, & 手島翼. (2025). 土砂粒径ごとの 「平均流送速度」 を用いたセグメントスケールの土砂通過時間の検討. 土木学会論文集, 81(16), 24-16126.
https://doi.org/10.2208/jscejj.24-16126
★河道掘削には川が川らしくいられる環境の限界があるのではないか?/砂州による瀬淵の機能が最低限維持される限界はどこにあるのか?
原田守啓, & 萱場祐一. (2022). 河道の限界-治水と環境が調和した持続可能な河道についての一考察. 河川技術論文集, 28, 451-456.
https://doi.org/10.11532/river.28.0_451
